植物の育成に関する様々な本やweb ページで「風を当てると良いのだ!」というようなことが書かれています。
そこで今回は風と植物の成長に関して色々と考察していこうと思います。
2021/7/27 追記。
パキポディウムに直接風を当てると、幹が太くなる可能性があるよーっていう記事も書いてありますので、よかったらどうぞ!
- 風を送ることによって水吸収の効率が上がる?〜以前のBBYが考えていた理論〜
- 風を送ることによって光合成の効率も上がる?〜以前のBBYが考えていた理論2〜
- 植物に直接風を当てるのは良くないっぽい
- 生育環境の風を循環させるには
- まとめ
- 参考
風を送ることによって水吸収の効率が上がる?〜以前のBBYが考えていた理論〜
水には互いにくっつこうとする性質があります。植物体内の水も同様に、お互いがくっついています。
これは水素結合によるもので、これが応用されている例として良く挙げられるのが、サイフォンの原理です。
イメージとしては根から吸い上げられた水は維管束を通じて、葉裏の気孔まで一本のヒモのようにつながっている感じです。
そして水は、気孔から水蒸気として空気中に放出されます。放出されることが原動力となって、根が新たに水を吸い上げるのです。ヒモが空気中に引っ張られ、地面から新たな水のヒモを引っ張り上げているようなイメージです。
気孔から水蒸気を放出することを「蒸散」と言いますが、実は蒸散が水吸収の大きな原動力になっています。
蒸散の効率を上げることによって、植物は水や土壌中の無機養分をたくさん吸収できます。理想的な環境(適切な温度、湿度、光量など)を植物に提供できているなら、ガシガシ蒸散させた方が植物の成長は早まりそうですよね。
ではどうすれば、ガシガシ蒸散させられるのでしょうか。
蒸散を活発にさせるには大きく2種類あります。
- 気孔を開けさせる。
- 気孔周辺の境界層を薄くする。
1つ目の「気孔を開けさせる。」ですが、かなり複雑です。様々な要因によって気孔の開閉は決まります。環境条件によっても変わりますし、植物種や体内時計によっても制御されているようです。こりゃ難しい、、、。
(一応植物が気孔を開閉させる場面をまとめてみました。こちらからどうぞ。↓↓)
ってことで、「気孔周辺の境界層を薄くする」に白羽の矢が立つわけです。
境界層というのは、葉っぱの周りにある、あまり動かない空気の層のことです。
この境界層が壁のように機能してしまい、蒸散ができなくなってしまうって感じです。境界層が蒸散を邪魔することを「葉面境界層抵抗」なんて言ったりします。
この境界層が厚いと、気孔を開いていたとしても蒸散が十分に行われないこともあるそう。そうなると、なんとかしてこの境界層を薄くしたい。
そこで登場するのが風です!風を送り、空気を動かせば、境界層が薄くなり、ガシガシ蒸散してくれるはずです。理論上は、、、、。実際はそうでも無いようで、詳しいことは後述します。
風を送ることによって光合成の効率も上がる?〜以前のBBYが考えていた理論2〜
境界層はCO2の壁としても立ちはだかります。
さらに、順調に光合成を行なっていくと、気孔周辺の二酸化炭素がなくなってしまい、光合成の効率が低下してしまいます。
この問題も風で解決できそうです。
風を送ることによって、気孔周辺の空気を拡散させて二酸化炭素を供給させてあげたら良いじゃあないか、というわけです。
ここまでくると次の疑問が生まれます。「風を送ってやると良いのはわかったけど、直接風を当てるのが良いの?当てるとしたらどれくらいの強さが良いわけ?」
植物に直接風を当てるのは良くないっぽい
今までの話を聞くと、植物に直接風を当てた方が良さそうに見えます。
確かに、境界層が早く拡散され、蒸散や光合成の効率が上がりそうです。ですが、実際には事情が違うようです。
論文や書籍を見てみると、以下のような記述が見られます。
Our results for E. farinose in the metropolitan Phoenix area strongly suggest that reduced wind speed improves plant growth.(phoenix 地域に生息するエンセリアファリノーザを用いた実験から、風速を減らすことで植物の成長が改善されることが強く示唆された。)
出典:Christofer Bang et al.,2018 『Reduced Wind Speed Improves Plant Growth in a Desert City』
「光合成量は空気流動が増加しても増加しなかった。蒸散も予想と違い、空気流動が増加すると低下した。」
出典:エペ・フゥーヴェリンク、タイス・キールケルス (2017) 『オランダ最新研究 環境制御のための植物生理』農山漁村文化協会
筆者らは、
- 風に揺らされることや、他の葉と接触することがストレスになっていた。
- 風によって植物体の温度が低下してしまい、逆に気孔を閉じてしまった。
などを原因と考えているようです。
植物は温度が高すぎると、蒸散による気化熱によって温度を下げようとします。
温度が低すぎると逆に気孔を閉じてしまうんですね。
蒸散と高温の関係ついては光順化の記事でも簡単に触れていました。
うーん、本当に気孔は奥が深い!パキポディウムやブロメリアなどは風に揺らされるような葉こそつけませんが、温度低下の影響はもろに受けそうですねー。
しかし、上記の結果を踏まえた上で、
「緩やかに空気を動かすことによって、葉面境界層が薄くなり、境界抵抗も小さくなってCO2の吸収が容易になるのである。」
出典:エペ・フゥーヴェリンク、タイス・キールケルス (2017) 『オランダ最新研究 環境制御のための植物生理』農山漁村文化協会
と記しています。
以上のことを考えると、「風を当てる」ではなく「空気を循環・拡散させ、緩やかに風を動かす」方が良さそうです。
※風の特性を逆に利用すれば、コンパクトな株に仕立てあげることも可能だとか。パキポディウムなどの caudex は風をガンガン当てるのもいいかもしれません。
パキポディウムに直接風を当てると、幹が太くなる可能性があるよーっていう記事
生育環境の風を循環させるには
ここからは空気循環を生むにはどうすれば良いかを場所別に分けて考えていこうと思います。
屋外を除き、空気の循環を生み出すにはサーキュレーターのような直線的な風が一番だそうです。
どこにサーキュレーターを置いて、どの方向に風を当てれば良いかをBBYなりに考えてみました。
屋外
基本的に何もしません笑。自然の風に全てを委ねます。
室内
私は自室でも植物を生育させています。自室ではサーキュレーターの風を対角線方向に向けています。こうすることで室内の空気が循環されるようです。
植物用水槽や植物棚
水槽内で植物を育てている人や、棚に断熱材を取り付けて簡易的な温室を作成し、そこで植物を育てている人もいると思います。私もアグラオネマを爬虫類用ケージで育てています。この場合、対角線上に空気を送ると、どうしても植物にぶつかってしまいます。
このような場合は、風を上から下、もしくは下から上に向けて送ることで空気の循環を試みます。
今回のような場合、スペースがないため、小型のファンを使っている方も多いかもれしれません。(私もパソコン冷却用のファンを使っています。)
ここで確認して欲しいのは、空気を送る機器の風速です。風速が棚の上下幅よりも小さいと、空気が途中で拡散してしまい、空気の対流が起こらないことが考えられます。(BBYの勝手な予想なので、実際はどうかわかりません。^^; 風速よりも風量の方が大事なのかな?)
BBYの冷却用ファンは、風速を計算すると、1.7m/s となりました。本当か?笑
もう一つ忘れてはいけないことがあります。それは風の直進性です!
扇風機は広範囲に幅広く風を送る目的で作られているので、空気の対流が起こりにくいそうです。
これは困りました。扇風機や冷却用ファンの風をサーキュレーターのように直進性の風にしたい、、、、。ネットで調べてみると、改造している人がいました!すごい!!
サーキュレーター化改造の設計図とか | Lumieregreen (ameblo.jp)
これを使えば、扇風機や冷却用ファンの風に直進性を持たせられそうです。
ここまでいろんなことを書きましたが、植物を育て始めて5ヶ月の新参者なので、実績がないのが辛いところです。あくまでも考察の一つとして楽しんでいただけたらと思います。
まとめ
- 「風を当てる」ではなく「空気を循環・拡散させ、緩やかに風を動かす」方が良さそう
- 空気を緩やかに動かすには、送風機器の場所や風速を考える。
参考
本
エペ・フゥーヴェリンク、タイス・キールケルス (2017) 『オランダ最新研究 環境制御のための植物生理』農山漁村文化協会
論文
Reduced Wind Speed Improves Plant Growth in a Desert City(Christofer Bang et al.,2018)
Web
サーキュレーター化改造の設計図とか (Lumieregreen さんのブログ)