BBYの観葉植物 Discussion Note

観葉植物の生育環境や、育てかたについて考えたことを載せるブログです。

「昼夜の温度差が植物をかっこよくする」説をBBYなりに考察

今回は「昼夜の温度差が植物をかっこよくする」説をBBYなりに考察してみました。いやー、今回の記事は難産でした。^^;
難産のせいで画像を準備できませんでした。そして文字数がかなり多くなってしまった。。。。目次から まとめ に飛ぶのもいいと思います。
それではどうぞ!

 

「昼夜の温度差が植物をかっこよくする」説を知った経緯

タイトルについて調べようと思ったきっかけは、
先日、私が頻繁に通わせてもらっている園芸店の店長さんからこんな話を聞いたからです。

「長野や山梨の園芸家さんが作るサボテンはぷっくりとしていて、トゲもイカつい。」
「なぜなら、昼夜の温度差が大きい。昼は暖かく、夜は涼しいからだ。」
「夜温が低い方が無駄なエネルギー消費が抑えられて、プリっとかっこいい姿になるのだ!」

ムムム。これはいい話を聞いた!早速色々と調べることにしました。

昼夜の温度差が好影響を与えるケースは多くあるようだ

確かに、夜間の低温で、果実が美味しくなったりする例はあるようです。
「温度差 果実」でググるといろいろ出てきます。

私が信頼しているサイトの一つである、日本植物生理学会「みんなのひろば」にも、
糖質分解について | みんなのひろば | 日本植物生理学会

大手種苗会社である、タキイ種苗の情報誌にも
https://www.takii.co.jp/tsk/bn/pdf/20120861.pdf

夜間の低温で果実の糖度が上がることが言われています。
店長さんは、「昼夜の温度差がサボテンをぷっくりとかっこよくしている。」と話していました。果物ではなく、サボテンですよ!
てことは、この現象は果物だけでなく、植物全般に言えることなのでは?
そうなると、植物の体内では何が起こっているのでしょうか?
考えられることは2つ。

  1. 不必要な維持呼吸を抑え、余剰の光合成産物がある状態をつくる
  2. 余剰の光合成産物が貯蔵器官にたっぷり貯えられる

以下、それぞれに詳しく向き合ってみることにします。

夜の低温で不必要な維持呼吸を抑えることができる

植物だって生き物ですから、「呼吸」をします。
※ここで使う「呼吸」とは有機物(光合成産物)を分解してエネルギーを取り出すことを指します。

中でも生命活動を維持するための呼吸を「維持呼吸」というようです。
そして生命活動は「酵素反応」の連続ですから、温度の影響を受けます。
最適温度に近づくほど、反応速度は上がります。
逆に、温度が低くなるほど、反応速度は下がります。
そして、温度が上がりすぎると、「酵素」は失活してしまいます。
つまり、「維持呼吸」は温度の影響を受けるということになります。

一般に、温度が 10 ℃上昇すると、維持呼吸は 2 倍になる。
出典:エペ・フゥーヴェリンク、タイス・キールケルス (2017) 『オランダ最新研究 環境制御のための植物生理』農山漁村文化協会 p.31

光合成ができない夜、温度が高い状態だと、不必要な「維持呼吸」の反応速度が上がってしまい、せっかく作られた光合成産物を無駄に消費してしまうことになります。

そのため、夜の温度を下げるというのは光合成産物を消費させることなく貯えさせる、という意味で効果的なのでしょう。

ここまで調べてBBYは次の疑問にぶち当たります。
「植物は光合成産物をどこに蓄えるのだろうか?貯蔵器官?」
「葉で作られた光合成産物を貯蔵器官に輸送するのだとしたら、それこそ温度の影響を受けるのでは?」
さあ困った!でも向き合うしかないんだ、頑張るぞ!この疑問に一つずつ向き合うことにしました。

不必要な維持呼吸を抑えることで余った光合成産物はどこに貯えられるか

仮に、夜の低温で光合成産物が余ったとします。余剰の光合成産物はどこに貯えられるのでしょうか?私が目をつけたのはソースとシンクという考え方です。

ソースとは、たくさん光合成をして養分を生産・提供する器官のことを、
シンクは、自ら養分を生産できない器官や、養分を溜め込もうとする器官のことをいいます。以下にテイツザイガーの用語解説を引用しておきます。

シンク sink
光合成産物を輸入する器官で、非光合成器官、自身の成長の維持や彫像に十分な光合成産物を生産できない器官を含む。根、塊茎、成長中の果実、未成熟葉など。
出典:L.テイツ / E.ザイガー テイツザイガー植物生理学(2017)培風館 p.776

ソース sourse
自分が必要とする以上の光合成産物を生産することができ、それを他の器官へ輸出する器官。成熟葉、シンクの対照語。
出典:L.テイツ / E.ザイガー テイツザイガー植物生理学(2017)培風館 p.778

おそらく、余剰の光合成産物は「シンク」に貯蔵されるでしょう。
では、流行している植物に当てはめたらどうなのでしょうか?「シンク」≒「貯蔵器官」として色々調べました。しかし、、、、
私が持っている書籍には「貯蔵器官」の説明がありませんでした(>_<)
仕方がないので、Webで調べてみるとこんなサイトを見つけました。

www.hoshi-lab.infoこのサイトを参考にするなら、
パキポディウムなどの灌木だったら、塊茎。
サボテンやアガベなどの多肉質植物なら、葉肉なのかな?
多肉質の葉を持つチレコドンなどの冬型植物は、幹と葉肉?

どれもしっかり光合成産物を貯めこみ膨らめば、植物がかっこよくなりそうな部位であります!
ここまでは「昼夜の温度差が植物をかっこよくする」説と矛盾しません。

ですがもう一つ疑問が残っているのを忘れてはいけません。

 「葉で作られた光合成産物を貯蔵器官に輸送するのだとしたら、それこそ温度の影響を受けるのでは?」

です。次の項ではこの疑問に向き合うことにします。

光合成産物の輸送は温度に影響される

葉で作られた光合成産物を貯蔵器官に輸送するのだとしたら、それこそ温度の影響を受けるのでは?

調べてみると、嫌な予感的中。光合成産物の輸送は温度の影響を受けるようです。

同化産物(光合成産物)の分配や、分配された物質の変換は温度に依存する。
出典:エペ・フゥーヴェリンク、タイス・キールケルス (2017) 『オランダ最新研究 環境制御のための植物生理』農山漁村文化協会 p.113

もう少し具体的に調べると、*1葉から師管への輸送と、師管から貯蔵器官への輸送は酵素反応により仲介されていました。つまり、温度の影響を受けることになります。夜、温度が下がると、光合成産物が貯蔵器官に輸送されないということになってしまいます。

これでは、「昼夜の温度差が植物をかっこよくする」という事実に反します!
この矛盾をすり抜けるにはどんな状況が考えられるかをたくさん考え、一つの仮説にたどり着きました。

「昼夜の温度差が植物をかっこよくする」説に対するBBYの仮説

BBYが考えた仮説は

BBYの仮説日没後、緩やかに温度が下がっていく間にも輸送は行われており、維持呼吸が十分に低下する夜には、輸送完了しているのではないか?

ということです。もう少し具体的に書くと、

日中は暖かいため、光合成をガツガツする。
日没後、少し涼しくなってきたが、光合成産物の輸送はできる。
夜中、さらに涼しくなるので、維持呼吸が低下。光合成産物の輸送もほぼ停止するが、すでに輸送は完了している。

このように考えれば矛盾はありません。このように考えると大事なことは

  1. 日中の光合成速度をできる限り高める
    温度が上がると呼吸だけでなく、光合成速度も上昇します。ですが、一般的な C3 植物の場合、光合成速度は 17 ℃辺りからほぼ上昇しなくなります。日中の呼吸量も考慮すると日中の温度は17 ~ 25 ℃ が良さそうです。
  2. 温度を緩やかに変化させる必要がある
    光合成産物の輸送を完了させるためです。急に温度を下げると、葉で作られた光合成産物が貯蔵器官に輸送されないままになってしまいます。
  3. 植物が耐えられない高温 or 低温は避ける
    植物によって耐えられる高温& 低温は異なります。植物がダメージを負わないように極端な温度は避けるべきです。

単純に温度差をつけるのではなく、色々なことに考慮することが大切っぽいですね。

まとめ

  • 「昼夜の温度差が植物をかっこよくする」説はおおむね正しい。が、
  • (1)日中の光合成速度が最大になるような温度を選択すること
  • (2)緩やかに温度を変化させること
  • (3)植物が耐えられない高温 or 低温は避けること、の3つに注意する。

参考

【本】

L.テイツ / E.ザイガー テイツザイガー植物生理学(2017)培風館

エペ・フゥーヴェリンク、タイス・キールケルス (2017) 『オランダ最新研究 環境制御のための植物生理』農山漁村文化協会

【Web】

糖質分解について | みんなのひろば | 日本植物生理学会

https://www.takii.co.jp/tsk/bn/pdf/20120861.pdf

局所肥大症の植物

*1:テイツザイガー 11章 篩部転流 p.287 ~ 307