BBYの観葉植物 Discussion Note

観葉植物の生育環境や、育てかたについて考えたことを載せるブログです。

休眠してしまった灌木(コーデックス)を目覚めさせるには 〜熟睡パキポディウムを起こしたい〜

我が家には、いまだに休眠から目覚めない Pachypodium makayense (パキポディウム マカイエンセ)と、最近休眠した Othonna herrei (オトンナ ヘレー)がいます。

最近寝た Othonna herrei はともかく、マカイエンセに関しては流石に心配なので、調べて対策することにしました。

 

 

なぜ休眠するのか

葉は光合成によってエネルギーを作りだす器官ですが、維持するためにエネルギーが必要です。

ほとんど雨の降らない時期や、とても寒い時期、日照時間が短い時などは、光合成の効率が低下します。

光合成効率が悪い時期になると、植物は「光合成効率が悪いのに、高いランニングコストを払うのはコスパが悪いなぁ」と考え、休眠状態に入るのです。

植物は日照時間 & 温度の変化で休眠するかどうかを決める

植物は主に

  • 日照時間の変化
  • 気温の変化

を感じることで休眠するかどうか判断すると言われています。*1

例えばポプラの場合、短日条件(日照時間が 8 時間以下)、18 ℃ 以下の温度で 6 週間生育すると、休眠するそうです。*2

つまり、夏型植物の場合

「日照時間の減少」と「気温の低下」休眠開始

「日照時間の増加」と「気温の上昇」休眠打破

となります。(※ 冬型植物の場合は逆になると思われます。)

 

うちのマカイエンセは現在、LED を 14 時間、平均気温 25 ℃ という、休眠打破し活動を再開するような環境で管理していますが、全く音沙汰なし。

f:id:BambooBornY:20210722165341j:plain

いまだに目覚めない Pachypodium makayense 2021/7/1 撮影。

それもそのはず。植物が休眠を打破し、活動を再開するには他にも条件があるようです。

休眠打破するには数週間の低温処理(春化処理)が必要

このブログを書くにあたり、いくつか論文をチラ見しましたが、多くの論文に

「休眠打破させるためには、数週間の低温処理(春化処理)が必要」

と書かれていました。

例えば、

Some observations suggest that low temperature contributes to terminal bud initiation and dormancy.
(多くの観察により、低温が頂芽の生成・休眠に関与していることが示唆される。)

出典:『Decoupling photo- and thermoperiod byprojected climate change perturbs buddevelopment, dormancy establishment andvernalization in the model tree Populus (Päivi L. H. Rinne et al.,2018)』

 

他にも、温暖化と、落葉樹の活動再開時期の関係性を調べた論文*3の冒頭には、

Many deciduous tree species require chilling for dormancy release,---
(多くの落葉樹は休眠打破するために低温を必要とし、〜)

出典:『Declining global warming effects on the phenology of spring leaf unfolding (Y. H. Fu et al.,2015)』

と書かれています。

休眠した植物は、夏の終りかけなど、変な時期に活動を再開しないように、このようなメカニズムを取り入れていると考えられています。

 確かにうちのマカイエンセは 12 月になってから屋内で管理していたため、低温らしい低温を感じないまま休眠しています。これが原因である可能性は高そうっすね。

冬型植物の場合は逆に高温処理が必要かもしれません。

「日照時間の減少」と「気温の低下」が同時に起きるとうまく休眠打破できない

 とある論文に興味深い内容があったので紹介したいと思います。下の図を見てください。

f:id:BambooBornY:20210721000530p:plain

出典:『Decoupling photo- and thermoperiod byprojected climate change perturbs buddevelopment, dormancy establishment andvernalization in the model tree Populus (Päivi L. H. Rinne et al.,2018)』

 

簡単に解説すると、

図 A. 日照時間が減少した後に気温が下がると、休眠や春の目覚めが促進される
短日条件、18 ℃ で 6 週間生育させると「休眠状態」に移行。
その後、短日条件、12 ℃ で 6 週間生育させると、植物体内で活動再開の準備が行われる。
18 ℃ に戻すと、適切に活動が再開される。

図 B. 日照時間の減少と気温の低下が同時に起こると、休眠や春の目覚めが抑制される
短日条件、12 ℃ で 6 週間生育させると「休眠状態」に移行。
その後、短日条件、12 ℃ で 6 週間生育させると、植物体内で活動再開の準備がうまく行われない。
18 ℃ に戻してもうまく活動の再開ができない。

だそうです。 めちゃ要約すると、

「日照時間の減少と気温の低下が同時に起こると、次の春に目覚めにくい。」

屋外で植物を管理していれば、日照時間が減少した後に気温が下がってくるので、特に心配することはなさそうです。

しかし、屋内での管理となると話は別です。光源である LED の照射時間は自由に決めることができますし、パネルヒーターやエアコンを使えば温度そのたも調節できます。

植物にとって屋内管理は「不自然」な環境なのです。

そのため、休眠させるかどうかをきちんと決め、そのための環境をしっかりと整えることが大事です。

f:id:BambooBornY:20210722165344j:plain

完全に休眠モードに入った Othonna herrei (2021/7/10 撮影)
冬型植物の場合、長日条件 → 気温の上昇 と段階を経ると次秋にスムーズに目覚める?

 

植物の活動を再開させる(休眠打破させる)には

ここまで休眠と活動再開のメカニズムについて書いてきました。ここからは休眠打破させる具体的な方法を書いていこうと思います。

いくつか方法を書きますが、一番効果があるのは低温処理のようです。

そして、

石灰窒素やニンニク精油、サイトカイニン、ジベレリン処理には深い休眠を打破させる効果はなく、ある程度低温処理をした後に補助的な効果を発揮するようです。*4

※これらの処理は落葉果樹(ブドウ、リンゴ、セイヨウナシなど)を元に実験されたものなので、他の植物種に当てはまるかどうかは不明です。参考にする際は、どうか自己責任でお願いします。m(_ _)m

以上を踏まえてご覧ください。

数週間低温にさらす

数週間、植物が耐えられる程度の低温にさらします。理由はこれまで書いたとおりです。

一番安全なのは冬に外に出すことです。ただ、耐えられる低温は植物種により異なるので事前に確認しておいたほうがいいでしょう。

 (私のブログでも、さまざまな植物の耐えられる低温をまとめています。よろしければどうぞ。)

bambooborny.hatenablog.com

 

石灰窒素 or ニンニク精油を散布する

少し古い文献ですが、『落葉果樹の芽の休眠(1999 田村)』によれば「石灰窒素」、「ニンニク精油」には休眠打破させる効果があるそうです。

石灰窒素に関しては、昔から農薬として使われているそうです。土壌中で分解されたのち窒素肥料としての効果もあるようで良さげ。

ただ、直接皮膚に触れると炎症を起こしたり、散布直後は極端に酒に弱くなったりするらしく、取り扱いが難しそうです。*5

 

ニンニク精油に関しては、そもそも食べ物なのである程度安全な感じがしますが、刺激が強いっぽいです。実物を手に取ったことがないのでなんとも言えませんね。すいません(>_<)

どちらも休眠中の器官に強いストレス(呼吸阻害)を与えることで休眠打破させるという、ショック療法的な感じです。

 

BBYが試す予定は今のところないですが、もし試すことがあったらブログで報告したいと思います。笑

 

ジベレリン or サイトカイニン処理をする

今回様々な論文を見てきて、

「春の活動再開時、植物体内のジベレリンレベルが高まっている」という報告が多くありました。

実際、園芸店などで販売されているジベレリンの効能にも「休眠打破による萌芽促進(ばれいしょ)」との記載があります。*6

こちらも期待できそうですが、植物種によっては休眠をより深めてしまう可能性もあるようです。*7

 

サイトカイニンも休眠打破の効果があるようです。

前述のようにサイトカイニン類は目の休眠打破効果を持つ。ーーーー効果はある程度の低温が蓄積し自発休眠が覚醒に向かった後にのみ発揮されることが指摘されている。

出典:落葉果樹の芽の休眠(田村, 1999)

人体への影響も少なく安全という点で、石化窒素やニンニク精油よりも使いやすいと思いますが、何せホルモン。使うには度胸がいりますね。(^^;)

 

BBYはとりあえず低温処理から試す予定

ここまでいろいろと活動を再開させる方法を書いてきましたが、とりあえず低温処理することからやってみようと思います。

「冷蔵庫に入れる」
「保温箱に保冷材を入れ、その中に植物を入れる」
など考えましたが、おとなしく冬まで待つことにします。笑

来春、休眠が打破されないようなら、ジベレリン処理をしようかなって感じです。

 

まとめ

  • 植物は日照時間と気温の変化を感じて、休眠するかどうかを判断している。
  • 休眠打破させるには数週間の低温が必要。
  • 日照時間の減少と気温の低下が同時に起こると、次春の休眠打破がうまく行かない。
  • 石灰窒素、ニンニク精油ジベレリン、サイトカイニン処理により休眠打破できる可能性がある。

参考

【論文】

Decoupling photo- and thermoperiod byprojected climate change perturbs buddevelopment, dormancy establishment andvernalization in the model tree Populus (Päivi L. H. Rinne et al.,2018)

Declining global warming effects on the phenology of spring leaf unfolding (Y. H. Fu et al.,2015)

落葉果樹の芽の休眠(田村, 1999)

【Web】

石灰窒素 - Wikipedia 

STジベラ錠5-ぶどうの無種子化、草花の生育促進に|住友化学園芸 (sc-engei.co.jp)

 

 

*1:今回メインで参考にしている『Decoupling photo- and thermoperiod byprojected climate change perturbs buddevelopment, dormancy establishment andvernalization in the model tree Populus 』内の Background の記述より

*2:『Decoupling photo- and thermoperiod byprojected climate change perturbs buddevelopment, dormancy establishment andvernalization in the model tree Populus (Päivi L. H. Rinne et al.,2018)』Fig. 9 , Additional file 1 より

*3:『Declining global warming effects on the phenology of spring leaf unfolding (Y. H. Fu et al.,2015)』

*4:落葉果樹の芽の休眠(田村, 1999)

*5:石灰窒素 - Wikipedia より

*6:STジベラ錠5-ぶどうの無種子化、草花の生育促進に|住友化学園芸 (sc-engei.co.jp) すべての植物に当てはまるわけではない。

*7:『落葉果樹の芽の休眠(田村, 1999)』より