用土深掘りシリーズ第3弾。今回はボラ土(日向土、ひゅうが土)について。
ボラ土は、研究・調査が進んでいないためか文献が少なかったので、今までとは少し別の視点で深掘りしていこうと思います。
ぼら土とは
ボラ土は、桜島や霧島山の噴火により生じた軽石層(現地ではボラ層と呼ばれる)から採取される『軽石』です。
このボラ土、販売している会社によって様々な名前が付けられています。「ひゅうが土」、「日向土」、「日向軽石」などなど。
「ひゅうがぼら土」「日向ぼら土」など「ひゅうが」又は「日向」の文字を使った商品がありますが、弊社製品とは製法の違う類似品ですので、ご注意ください。
永田農法「日向土」などの様に一般名称で弊社製品を紹介される場合もあります。
出典:ひゅうが土販売株式会社 - ひゅうが土とひゅうが土販売株式会社
そもそも『ボラ、ボラ層』って?
『ボラ、ボラ層』というのは作物の生育を妨げる軽石層のことです。
【ボラ層】一般には噴出時代が比較的新しく、作物の根群の深さ以内に成層しているので水の供給を遮断して生育不全の原因となっている軽石層を指すものと解され、鹿児島県大隅半島の北部一帯に分布している。
出典:『ボラ、コラ』農業土木研究 31 巻 5 号(1963 - 1964)
宮崎県や鹿児島県は活発な火山が多いためか、複数のボラ層があるようです。代表的なボラ層とその由来噴火は以下の通り。※ 場所により層の順序、種類、厚さが異なります。
「大正ぼら」→ 桜島 大正の大噴火 (1914年) *1
「安永ぼら」→ 桜島 安永の大噴火 (1779年)*2
「霧島ぼら」→ 霧島山 新燃岳の享保噴火 (1716年) *3
「御池ぼら」→ 霧島山 御池の噴火 (約 4600 年前) *4
さて、4層のボラ層のうち、日向土が採取されているのはどの層でしょうか?
ぼら土が採取されているボラ層を推定
園芸用に使用されているボラ土は、おそらく様々な場所で採取されていると思います。ここでは、私がよく使っているボラ土の採取されているボラ層を推定してみます。ちなみに私が使っているのはこちら。
ホームページで確認すると、宮崎県都城で採取されているようです。
宮崎県都城市の「ぼら土」と呼ばれる軽石の一種を全国販売するにあたり、「ひゅうが土」と命名して発売したのがひゅうが土の始まりです。
出典:ひゅうが土販売株式会社 - ひゅうが土とひゅうが土販売株式会社
そして、株式会社ひゅうが土さんに問い合せたところ、「表土から約 1 m 掘ったところから現れた軽石層を採取し、精製したものを使っている」との事でした。
都城市付近の柱状図が『霧島火山地質図』に掲載されていたので参照すると、このような感じでした。
地表近くにある「Sz-1 : 桜島・大正軽石」は 1914 ~ 1915 年の桜島噴火、「Sz-3 : 桜島・文明軽石」は 1471 ~ 1476 年の桜島噴火によるものです。桜島は、霧島山よりも遠くに位置しているので、堆積した軽石の量はそこまで多くないようです。そのことは柱状図からも明らか。となると、
「MiP : 御池軽石」(御池ボラ)
が日向土の採取層となりそうです。
これを裏付けるように、『地盤工学ジャーナル Vol.9,No.3,397-415』の表 3 には
"宮崎県都城市(御池ぼら・日向土)"
と記載されています!
以上のことから、ひゅうが土が採取されているボラ層は「御池ボラ」と考えられます。
ボラ土の化学組成を探る
さて、ひゅうが土は「御池ボラ」から採取されていることが濃厚となったところで、組成を調べていきます。
先ほど参照した『霧島火山地質図』に霧島火山の主な岩石組成が載っています。その中に、御池の岩石組成も載っていました。御池は 4600 年前の噴火によりできた火口であるため、『御池の岩石組成 ≒ 御池軽石(御池ボラ)』と考えて良さそうです。
その御池の岩石(軽石)組成がこちら。
風化の程度によって組成に変動があるので、多少の違いがあるはずですが、御池軽石もこれに近い化学組成だと考えられます。
保水性・排水性
この記事にまとめてあるので、詳しくはこちらをご覧ください。
本当に要点だけまとめると、
【水分保持量 ≒ 保水性】
中粒 32.8 g/160ml = 0.205 g/ml
小粒 34.9 g/160ml = 0.218 g/ml
細粒 32.5 g/160ml = 0.203 g/ml
【排水性 ≒ 透水性】
赤玉土や鹿沼土と排水性に差は見られなかった。
pH
具体的な数値を測定してくれているものがなかったのですが、
tomozoo.comでは、
日向土の pH = 6.5 ~ 7.0
という結果になったそうです。
保肥力
こちらも具体的な測定値は発見できず。ただ、風化が進んでいないところを見ると、保肥力は鹿沼土よりも低いと思われます。鹿沼土の保肥力 (CEC) は 12.91 ~ 51.09 cmolc/kg *5なので、これよりも低い可能性が高いです。
鹿沼土と日向土のちがい
日向土と鹿沼土は、どちらも『軽石』です。ですが、見た目も含め様々な違いがあるので、ここにまとめようと思います。
園芸に係る各性質のちがい
表で比較してみます。
両者間で異なるのは、
- 質量
- 保水量
- pH
の3つです。
まず、質量について。日向土は鹿沼土の約 1.25 倍あります。
そして、保水量は特に差が大きく、鹿沼土は日向土の約 1.5 倍の水を保ちます。
組成のちがい
日向土(御池軽石)の方がカルシウムやマグネシウム含量が多いのは興味深いですね。
※前述した通り、御池軽石の化学組成に風化の影響がどの程度考慮されているか不明です。実際のカルシウム・マグネシウム量は、もっと少ない可能性があります。
発泡度合いのちがい
写真を撮り、比較してみました。
表面の発泡度合いに関して、大きな差は見られませんでした。
続いて、断面のようす。
見た限りでは、鹿沼土の方が一つ一つの泡が大きいように見えます。
由来火山・火山の性質・噴火時期のちがい
どちらも火山噴火によってできた軽石層から採取されているので、由来火山の種類を調べれば何か分かるかもしれない、、、。ということで比較してみました。
由来火山はどちらも「安山岩質火山」で、大きな差はありませんでした。
特筆すべきなのは噴火時期です。鹿沼土は日向土よりも約 40000 年前に堆積していることになります。それだけの差があれば、風化にかなりの差があることでしょう。
化学組成や保水性等の差には、この風化の差が大きく関係していると考えます。
まとめ
- 日向土はボラ層から採取される軽石である。
- 保水量は赤玉土や鹿沼土よりも低く、0.203 g/ml ~ 0.218 g/ml 程度である。
- 排水性は赤玉土や鹿沼土とほぼ変わらない。
- 日向土の pH は 6.5 ~ 7.0 とかなり中性に近い。
- 保肥力(CEC)は鹿沼土よりも低いと考えられる。
- 鹿沼土と性質が異なるのは、風化の程度に差があるためだと考えられる。
よろしければこちらもどうぞ。
参考
- 『ボラ、コラ』
阿部雅雄 - 農業土木研究 31 巻 5 号(1963 - 1964) - 鉢物培養土用各種資材の理化学的性質
小島道也、佐藤幸夫、丸山保司 - 日本土壌肥料学雑誌, 1982 - 霧島火山地質図
井村隆介 、小林哲夫, 2001 - 富士山周辺における「スコリア」の地盤工学的特性
西岡孝尚、澁谷啓 - 地盤工学ジャーナル Vol.9, No.3, 2013 - 霧島火山の活動記録 / 3万年〜|災害と緊急調査|産総研 地質調査総合センター / Geological Survey of Japan, AIST
- 土について - 株式会社 刀川平和農園
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