BBYの観葉植物 Discussion Note

観葉植物の生育環境や、育てかたについて考えたことを載せるブログです。

学名、園芸品種名の解説 ~基本的な説明と AgaveやDyckia の品種について~

今回は植物の学名や、品種名など、BBY の理解している範囲で説明していこうと思います。

 

学名について

いきなりですが、問題です。

人类」、「Menselijk」、「มนุษย์」、「Binadamu」、「ადამიანური

これらは全て同じ生物を指す言葉なのですが、なんだと思いますか?

難しいですよね。

では、この生物の学名を紹介します。

この生物の学名は「homo sapiens(ホモ・サピエンス)」です。

さあ、この生物は一体何でしょうか?

正解はこちら

正解:ヒト

(ちなみに、左から中国語、フランス語、タイ語スワヒリ語ジョージア語です。)

 

馴染みのない言語で生物名を書かれてしまうと、分かりづらいですが、
学名を使えば、なんとなくイメージできることもあります。

このように、学名は世界共通の生物名なんですね。

学名の定義

ネットや本で調べた内容を要約すると、学名の定義は以下のようになります。

学名の定義

世界共通で、系統・分類に基づく生物名。
ラテン語で表記し、普通、属名と種小名で表す。

 

定義だけ書いても、「?」ばかりだと思います。

「なぜラテン語?」

「属名・種小名って?」

などなど。一つずつ解説します。

ラテン語である理由

ラテン語は 2000 年以上前、ローマ帝国で使われていた言語です。

ローマ帝国が滅んだ後は、主に聖職者や知識階層の人間が使っていたそうです。

現在は誰も使っていない「死語」ゆえに、共通の言語となるわけです。

 

例えば、ヒトの学名「homo sapiens(ホモ・サピエンス)」の、

「homo (ホモ)」はラテン語で「人間」という意味で、
「sapiens(サピエンス)」は「賢い」という意味です。

 

このように学名を使えば、どんな言語を使う人でも、同じ生物を認識できます。

 

学名は分類学に基づいて付けられる

では、先ほど出てきた「属名」と「種小名」について。

 

学名は分類学に基づいた名前でもあります。

分類学は生物を階層的に分類したものです。

階層的に分類とは、
例えば、住所のようなもので、

日本国、〇〇県、〇〇市、〇〇町、〇〇番地、

のように共通点のある大きなまとまりの中に、
より共通点の多いまとまりがあって。
それらのまとまりの中に、もっと共通点の多いまとまりがあって。。。。

というような分類の仕方です。

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階層的分類の例 - 住所



生物分類学では、「県」や「市」の代わりに、まとまりの大きい順から、

「界・門・綱・目・科・属・種」

が使われています。

これらのうち、学名は「属」の名前と「種」の名前(種小名)が使われます。

 

例えば、ヒトの分類は、

動物界
脊椎動物
哺乳綱
霊長目
ヒト科
ヒト属
サピエンス(種小名)

となるわけです。属名は「ヒト」、種小名は「サピエンス」なので、「ホモ・サピエンス」となるんですね。

もう一つ、植物の例を。

Agave horrida は

植物界
維管束植物門
種子植物
被子植物亜綱
クサスギカズラ目
クサスギカズラ科
リュウゼツラン(Agave)属
horrida (種小名)

となります。*1

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系統分類のイメージ。Agave horrida を例に。

 

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Agave 属に含まれる種のイメージ。

 

まとまりが小さくなるほど、種同士の共通点が多くなります。

例えば、Agave titanota と Agave horrida は同じ「Agave 属」なので、
見た目はもちろん、花のようすや、自生している気候など共通点が多くなります。

同じ属であれば、共通点が多いので、名前だけ見ればなんとなく種の特徴がわかるのも学名のいいところです。

Agave の「titanota 」や「horrida 」は品種名ではない

なので、Agave の「titanota 」や「horrida 」は種小名であって、品種名では無いことに注意!

このあたりごっちゃに解説してるサイトを見かけるので、気をつけてくださいね。

では、品種・園芸品種はどうたったもの?
次の項で解説します。

品種、園芸品種について

品種の定義

そもそも品種とは、

【園芸品種名】

栽培品種(さいばいひんしゅ、英語: cultivar)とは、一般的には望ましい性質を選抜した増殖可能な植物の集合である。

出典:Wikipedia - 栽培品種

とのことです。ふむふむ。

品種の表記方法

学名とともに表記するときは「 ’〇〇’ 」 (シングルコーテーション)で囲うのがルールだそうです。

 

例えば、コメ(学名:Oryza sativa )のコシヒカリという品種は

Oryza sativa 'Koshihikari'

となります。

同じ種同士で交配した場合は、種小名まで記載しますが、
同属異種で交配をした場合は、属名の後に品種名を書くようです。

Dyckia の園芸品種がまさにそうで、

Dyckia 'Avagard' という品種は、

Dyckia macedoi と Dyckia marnier - lapostollei

を交配させたものなので、種小名が書かれていません。
属名のすぐ後に品種名が書かれています。

 

作物の「品種」と Agave 、 Dyckia の「品種」は性質が異なる

作物の品種は「交配」「選抜」「固定」が必要

日本で育てられている作物品種の多くはタネで殖えるので、性質を「遺伝的に固定」する必要があります。

例えば、先ほどのコシヒカリは、
品質、食味ともに優れた「農林1号」と、
いもち病に強い「農林22号」を交配し、

「品質・食味が優れている」という性質のもと選抜された個体です。

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品種同士を交配する「交配」、望ましい性質を持つ個体を選ぶ「選抜」。



この個体を増やすためにはタネを取らなければなりませんが、取った全てのタネから「品質・食味が優れている」という性質が現れるわけではないのです。

同じ親から、同じ子どもが生まれないのは人間も一緒ですよね。

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次世代の個体から親と同じ性質を持つ個体を選抜し、特定の性質を「固定」していく。



そのため、「品質・食味が優れている」という性質が全ての個体に現れるようにするため、何度も選抜、交配を繰り返します。

そうして性質が固定されたら、ようやく品種として登録されます。

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次世代の個体が全て親と同じ性質を持っていたら「固定」完了。品種登録が可能に。



このように、タネでしか増やせない作物は「交配」「選抜」「固定」の3段階を踏む必要があるのです。

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タネでしか増やせない作物の品種が作られるまでの大まかな流れ。



Agave , Dyckia の品種は「固定」が不要

コメやトマトと違い、Agave や Dyckia は子株から増やすことができます。

子株は、いわばクローンなので、親株と基本的に同じ遺伝情報を持っています。

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子株も親株の体の一部。そのため、子株と親株は同じ遺伝情報を持つ。
人間の右耳と左耳の遺伝情報が異なるわけないっすよね。チュミミーン



そのため、新たな品種を作る際は「交配」「選抜」だけで品種の要件を満たすことになります。

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Dyckia は「交配」「選抜」をすれば品種登録可能。



つまり、Agave や Dyckia の品種は、本質的には、選抜個体であり、その性質は遺伝的に固定されていません。

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子株を作る植物の品種登録までの流れ。
「交配」がなくても蒔いたタネから育った個体が優秀なら品種登録可能。

 

「交配」が不要な場合さえあります。 Agave 属の植物がそうです。

Agave 属はタネが採れるまでかなりの時間を要します。花が咲くまで時間がかかるからですね。
そのため、自生地などで採れたタネをまいて育った個体がカッコよければそのまま品種名をつけてしまうこともできます。現地で優秀な個体を採取できれば、それにそのまま名前をつけることも可能です。(厳密に言うと、品種登録には専門の機関に申請し許可されないといけません。)

'No.1'
'Black And Blue'
'Hakugei'
'姫巌龍'(漢字が間違っていたらごめんなさい)
などはおそらく自生地で採取したもの or タネから育てて選抜したものでしょう。

 

BBY が実際にしていた勘違い

それは Dyckia に興味を持ち始めた1年前のことです。

Dyckia 'Wasabi' に猛烈に惹かれまして。なんとか欲しいけれども、高い!!

どうすればいいか、、、、。ふと考えたのは、

「自分で親品種を交配させれば、Wasabi を作ることができるのでは?」

ということ。

調べると、交配内容は HU-5 × Bill Baker でした。

流石に両品種を購入し、タネを取るまではかなりの時間がかかります。

うーん、どうしたものか。。。

数日後、メ○カリに同じ交配の Dyckia が売られているのを発見しました。

すぐに購入しました。私はそれを 'Wasabi' だと思い込んでいたのです。

「見た目は違うけれども、成長していったら 'Wasabi' になるんだ。きっとそうだ。」

そう思っていても一向に 'Wasabi' の性質は現れません。。。。。

 

Dyckia の品種に「固定」が不要であることを知らなかったゆえの間違いです。

あ、この株は今でも元気に育っています。どんな経緯だったとしも、植物に罪はないし、手元に来ればやっぱり可愛いっすね。

 

 

参考

【本】

伊藤元己・井鷺裕司(2018)『新しい植物分類体系 APGでみる日本の植物』文一総合出版

【Web】

お米の品種ができるまで - 農研機構

特集(1)食の未来を拓く 品種開発 - 農林水産省

 

 

*1:APGⅢ 分類体系による。