Dyckia ‘Wasabi’ が LED で葉焼けした原因を考える記事です。LED で Dyckia を育てている方々の参考になれば幸いです。
葉焼けした Dyckia ‘Wasabi’ の生育記録はこちら。
熱・乾燥・強光 の複合ストレスのせいで葉焼けした?
私は、熱・乾燥・強光の複合ストレスのせいで、葉焼けが起きると考えています。
テイツザイガーには、
熱単独では、葉温の上昇と機構コンダクタンスの大幅な増加を引き起こした。しかし乾燥は、光合成と機構開口をより強く阻害した。乾燥と熱ストレスを組み合わせた場合には、植物にとって致命的となるような葉温の著しい上昇をもたらした。
出典:L.テイツ / E.ザイガー テイツザイガー植物生理学(2017)培風館 p.737
と書かれています。
さらに、テイツザイガー p.738 の〔 図24.7 〕には、強光と乾燥、強光と高温には負の効果の可能性があることが記されています。
これらの情報をまとめると、
光による葉温上昇に加え、大気の温度もプラスされた結果、熱ストレスを受ける。
乾燥ストレスも加わっていると、気孔が閉じているため、植物は蒸散で葉面温度を下げることができない。
さらに強光を浴びることで、いよいよ植物は耐えられなくなり葉焼けする。
といった感じです。
というわけで、それぞれのストレス源を振り返ってみようと思います。
水やり頻度(乾燥ストレス)
4月 - 6/14 までは腰水管理をしていたので、水は十分にあったはず。
4月の時点で葉色が悪いですがなんとか葉焼けせずに持ちこたえています。そして腰水をやめた 7月にちょうど葉焼けしています。
このタイミングの合致を考えると、『水やり頻度が下がったために葉焼けした』と言えそうです。
光が強すぎた(強光ストレス)
4月末の時点で、すでに葉色が悪くなり始めています。4月の時点ですでに強光ストレスを感じていたのかもしれませんね。
そして葉焼けした7月。Vegefarm LED の真下で管理しており、Vegefarm LED の隣には、Enfun LED を最大の光量で点灯させていました。そのせいで、いつもよりも光強度が高くなっていた?
この時の PPFD 値を推定すると、
- Vegefarm 植物育成 LEDライト VEFA46WFJ
約 180 μmol m-2s-1・・・① - EnFun LED 120W
約 112 μmol m-2s-1・・・②
① + ② = 292 μmol m-2s-1
つまり約 300 μmol m-2s-1 の光量で葉焼けしたことになります。300 μmol m-2s-1 という数値はそこまで高くないイメージなので、何か釈然としませんね。
気温が高かった(高温ストレス)
各月の平均最高気温を見てみましょう。
実際に葉焼けした7月あたりは平均最高気温が 30 ℃ 近くありました。
ちなみに、7月でもっとも気温が高かったのは22日 13:00 の 33.62 ℃ でした。
葉焼けを確認した後、光量を減らしたことが功を奏したのか、8月末では、新たな葉焼けは見られませんでした。
まとめ
熱・乾燥・強光 の要因を表にまとめてみますと、
気温だけで見れば 8月の方が高いですが、水やり回数&光量に関しては7月の方がシビアな環境になっています。
「複合ストレスで葉焼けする」というのは可能性が高そうです。
ただ、300 μmol m-2s-1 の光量で葉焼けするのは何かおかしいです。曇りの日のPPFDが500 μmol m-2s-1 程度*1なので、Dyckia にとってはかなり低い数値のはず。何が原因なのでしょうか。
4月から葉色が悪くなったことを手がかりに、色々考えてみようと思います。
4月から葉色が悪くなった原因を考える
7月に葉焼けしたのは熱・乾燥・強光 の複合ストレスであるとして、4月から葉色が悪くなったのはなぜでしょうか。こちらも原因を検討してみようと思います。とりあえず可能性のありそうなものを羅列してみます。
- LED の波長が極端なため
- LED の照射時間が長すぎた
- LED は点灯した瞬間 max の光量を与える
- 根鉢が原因
- 栄養の枯渇
順に検討してみます。
LEDの波長が極端なため
LEDで生育すると、ブロメリアは赤くなる。
このことは3年前から植物にハマってから、ずっと思っていました。今回の Dyckia ‘Wasabi’ だけでなく、他のブロメリアでも同様のことが起きています。
例えば、Billbergia ‘Incendiary Delight’
Billbergia ‘Incendiary Delight’
Dyckia ‘Red Wing’
最初は赤くなってかっこいいなと思っていた程度だったんですが、次第に「これは不健康なのでは?」と思うようになりました。
植物の『赤色』といったらアントシアニンです。
jspp.org
このサイトによれば
この光阻害を防ぐため、主に葉の表皮細胞でアントシアニンが合成され、アントシアニンが太陽光のフィルターとして働き、葉緑体にあまり太陽光が届かないようにし、P(明反応)を低く保つようにしています。
出典:アントシアニンの出る理由 | みんなのひろば | 日本植物生理学会
とのこと。
アントシアニンは強すぎる光から身を守るために、植物体内で合成されるようです。つまりブロメリアはLEDの光を強すぎると感じているのです。
光量 (PPFD 値) の高い太陽光で赤くならず、LED で赤くなっていることから、
LED で赤くなる原因は『波長』だと思われます。
太陽光にあり、LED に無い波長は
- 紫外線
- 赤外線(遠赤色光)
の2つです。特に赤外線は光合成の効率を上げる『エマーソン効果』が知られています。
以上より、 LED で赤くなる原因は、
『遠赤色光が足りないせいで、十分に光を取り込めないために強光ストレスを受けている』
可能性があります。完全に妄想の域ですので、この説が正しいかどうかについては何かしら検証をする必要がありますねー。
照射時間が長すぎた
照射時間が長すぎたせいで葉色が悪くなった可能性はあるでしょうか?
パインアップルのCAM型光合成に関する研究において、筆者は
- 短日条件下で CO2 の収支が高くなった。
- PEP-C はリンゴ酸により活性阻害を受けるが、短日条件下では、阻害感受性がほぼなくなった。
- そのため、夜間のCO2 吸収が増えた。
と報告しています。
パインアップルの物質生産においては、CAM型を弱めるような制御は、CO2収支の低下をもたらすものと考える。
出典:パインアップルのCAM型光合成に関する研究
と考察しています。Dyckia がパインアップルと同様の応答をするかは不明ですが、参考になりそうです。
CO2が足りなくなれば、光合成は滞るはずです。CO2が足りない時に光を浴びれば、体内でROSが発生し、ダメージを受けることになるでしょう。ゆえに、葉がアントシアニンを貯めた、というのは考えられそうです。
ただ、同じ条件で生育していたにも関わらず、2022年3月末までは葉色が悪くなっていないんですよねー。
葉色が悪くなったことと、照射時間の長さの間には直接的な因果関係はないかもしれませんが、照射時間を10時間にする、というのは試す価値がありそうです。
LED は点灯した瞬間 & 夕方の遅い時間でも 高光量を与える
日光は昼に向かうにつれ、徐々に光量が増加していき、夜に向かうにつれ、徐々に光量が減少していきます。
一方、LEDは点灯した瞬間から一定の光量を放ちます。
今まで暗かったところにいきなり高光量で点灯するのは植物にとってストレスになるのかもしれません。
午後、特に夕方の強い光も同様です。夕方となると、水・CO2 が少なくなる状況もありそうです。水・CO2 の不足が光合成妨げる原因となっているかもしれません。そうなると、午後も強い光を与えるのは植物にとってストレスなのかも。
これも果たして本当にそうなのか、断言しづらいです。
森林の暗い環境で育っている植物の中には、数分の木漏れ日(サンフレック)だけで生きているものもいるようです。
密な森林では、数秒以内に 10 倍以上の光強度変化が葉に起きる。このようなエネルギーの持続時間はせいぜい数分であるが、量としては多い。サンフレックを経験する多くの陰生植物は、このような光の突然の増加をうまく利用するための生理的機構をもっている。
出典:L.テイツ / E.ザイガー テイツザイガー植物生理学(2017)培風館 p.248
急な光強度変化に対応できる植物がいることを考えれば、そこまで大きなストレスにはならない気がします。
根鉢が原因で葉焼けした
例えば、こんな可能性はないでしょうか。
『根の量に対し葉数が多くなりすぎた』
↓
『給水が間に合わず葉色が悪くなった』
考えられそうなシチュエーションですよね。
ですが、こちらを見てください。
この投稿を見る限り、根鉢でも健康そうです。このことから根鉢が葉色の悪化と関連している可能性は低そうです。
栄養の枯渇
10月に植え付けた用土にはゴールデン培養土が少々入っていますが、基本的には肥料を加えていません。元肥はほぼ入っていないと考えてよいでしょう。
2022年4月にはクスコート という固形肥料を 5 粒(0.2 g)加えています。
1g/L が適量なので、FR鉢 3.5 号(容量 約 460 mL)の場合は10粒程度が適量となるのですが、なんとなく少なめの量を加えています。
これに関してはなんとも言えません。情報発信をされている方の多くは肥料を少なめに添加しています。実際のところはどうなのでしょうかね。
まとめと今後の対策
4月から葉色が悪くなった原因として可能性の高いものは、
- LEDの波長が極端だった
- 照射時間が長すぎた
- 栄養の枯渇
です。
それぞれの対策としては
- 遠赤色光の含まれたLEDを使う
- LED の照射時間を 10 時間にする
- 肥料を与える
といったところでしょうか。遠赤色光の含まれた LED については、こちらのライトを購入しました。
Grassy LeDio RX201 / グラッシー・レディオ RX201 SUN – ボルクスジャパン
- 価格: 11290 円
- 楽天で詳細を見る
今後はこちらを使って様子を見ていこうと思っています。
肥料についてはこちらの方が呟いていた内容を参考にしてみようと思っています。
左:2週間前
— 植物内科 (@dr_medi_) July 29, 2022
右:今日
葉緑素前駆体の補充で急速に回復 pic.twitter.com/0lUnrN7wgE
見事に赤みが引いています。これすごいですよね!試すのが楽しみです(^^)
参考
【本】
L.テイツ / E.ザイガー テイツザイガー植物生理学(2017)培風館
【Web】
植物が光合成に利用可能な光の量の新たな推定法
アントシアニンの出る理由 | みんなのひろば | 日本植物生理学会
パインアップルのCAM型光合成に関する研究