パキポディウムをぷっくり太らせるには 第2弾。今回は接触刺激について。植物を触る、風を当てるなど植物への機械的な刺激は、植物を太らせる効果があるようです。色々調べ、自分なりに考察してみました。
接触刺激と接触形態形成
※この記事では植物に触る、風を当てるなどの物理的な刺激を接触刺激と定義します。
植物に接触刺激を与えると、以下のような形態の変化が現れます。
- 伸長生長(背丈が伸びるなど、タテ方向の成長)の抑制
- 肥大成長(幹が太くなるなど、ヨコ方向の成長)の促進
このような接触刺激による形態形成を接触形態形成(thigmomorphogenesis)と呼ぶそうです。※この概念は多少古いのかな?文献を漁っていても90年代のものが多かった。
参考にしているレビュー論文にはこのような記述があります。
Briefly, the most common features of shoot thigmomorphogenesis among many different plant species are a decrease in elongation growth and an increase in radial expansion.
(簡潔にいうと、地上部における接触形態形成の最も一般的な特徴は、伸長成長の減少と、肥大成長の増加です。そしてこれは、様々な植物種でみられます。)
出典:In touch: plant responses to mechanical stimuli (J. braam ,2004)
この論文、発表年こそ古いですが、レビュー論文かつ、New Phytologist というそれなりに有名な論文雑誌なので信頼できそうです。
さて、この接触形態形成、エチレンとtouch genesが関与しているようです。それぞれ深く掘り下げてみることにします。
接触刺激とエチレン
接触刺激によりエチレンが生成され、肥大成長を促す
エチレンといえば、果実の成熟を早めたり、落葉を促進させる効果を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか? 実は私もその一人でした。(⌒-⌒; ) 植物が接触刺激を受けると、体内でエチレンが生成され、肥大成長を促進することがわかっています。
毎度おなじみ、テイツザイガーにはエチレンについて以下のように記されています。
0.1μL L-1以上の濃度のエチレンは、伸長軸に平行な方向の伸長速度を減少させる一方、軸に垂直な方向の肥大成長を増進することによって真正双子葉植物芽生えの成長パターンを変化させ、胚軸または上胚軸の肥大を引き起こす。
出典:L.テイツ / E.ザイガー テイツザイガー植物生理学(2017)培風館
最近購入した本にもこのような記述が。
風による曲げや機械的な接触のような物理的ストレスがかかると、植物は一過的にエチレンを発生する。その結果、伸長生長の抑制が起こり、背丈が低く、太い丈夫な植物体になる。
(エチレンは、植物への機械的刺激が与えられた後に生成される。)
出典:浅見忠男/柿本辰夫 新しい植物ホルモンの科学 第3版 (2016) 講談社
これらの記述から、接触刺激と肥大成長にエチレンが関与していることがわかります。
エチレンが肥大成長を促す仕組み
エチレンは「セルロースをタテに並べる」ことで肥大成長を促します。
一体どういうこと? そのカギは細胞壁にあります。
細胞壁は主に3種類の物質で構成されており、例えるなら鉄筋コンクリートのような構造をしています。
セルロースは鉄筋かつ骨組みであるので、並び方によって細胞の形が決まります。セルロースがランダムに並んだ状態だと、細胞は球状に大きくなります。
セルロースがヨコに並ぶと、細胞はタテに大きくなります。セルロースは硬く、伸びることができないため、ヨコへの伸長は抑えられてしまうためです。
反対に、セルロースがタテに並ぶと、細胞はヨコに大きくなります。
このように、エチレンはセルロースをヨコに並べることによってヨコへの成長、いわゆる肥大成長を促進させます。(もう少し細かくいうと、セルロースは細胞内の微小管に沿って合成されます。エチレンは微小管をタテに並べるため、セルロースがタテに並ぶことになるのです。)
接触刺激とtouch genes
接触刺激を受けた時に発現量が増加する遺伝子、touch genes。その多くはカルモジュリン(カルシウムとの結合がスイッチとなって標的タンパク質にリン酸を付加するタンパク質。)としての機能を持つようです。興味深いのがTOUCH4 (: TCH4)。この遺伝子は細胞壁をゆるめるはたらきをしています。細胞壁がゆるむと、細胞は大きくなることが出来ます。ここで先ほどのエチレンが効いてくるわけです。まとめると、こんな感じ。
ロマンあるなぁ。これはあくまでも推論なので実際はどうなってるかわかりません。でへへ笑
シロイヌナズナの遺伝子サイトで色々調べてみると、touch genes の mutant は表現型に特徴が現れないものがほとんどで、まだまだ謎の多い遺伝子たちです。うーん、やっぱし、ロマンなるなぁ。
接触形態形成を引き起こすには?
毎日植物を触るのは難しいので、風を当てるのが手っ取り早いかと思います。ただ、どの程度の風がいいのか?
植物と風の関係について調べている論文*1*2をいくつか見てみると、「葉っぱが動く程度の風」で良さそう。
ただ、以前風と植物の関係について考察した記事でも書いたように、常に風を当て続けると成長が鈍ってしまう。そこでBBYの提案する方法はこれです。
この方法なら、生育速度を犠牲にすることなく、肥大成長を促すことができるのではないかと。
特定の場所にだけ風が当たっていても問題ありません。接触刺激による形態形成の変化は、植物体全体に及びます。
まとめ
- 植物に接触刺激を与えると、肥大成長を促進させることができる。
- 1日に数回、30分間強めの風を当てるのが良いかも。
【2021.12.09 追記】
本考察の検証を行った記事を書きましたので、よろしければどうぞ。
参考
【本】
L.テイツ / E.ザイガー テイツザイガー植物生理学(2017)培風館
浅見忠男 / 柿本辰夫 新しい植物ホルモンの科学 第3版 (2016) 講談社
【論文】
In touch: plant responses to mechanical stimuli (J. braam ,2004)