BBYの観葉植物 Discussion Note

観葉植物の生育環境や、育てかたについて考えたことを載せるブログです。

パキポディウムをぷっくり太らせるには:第1弾 ~現地の環境と季節性、形成層の活動性から考察~

 パキポディウムなどの潅木を太らせる育て方の考察を数回に分けて行うことにします。

【第 2 弾】

bambooborny.hatenablog.com

【第 3 弾】

bambooborny.hatenablog.com

 

さて、「パキポは秋に太る」っていう話を友人から聞きました。
ヘェ〜そうなんだぁ。なんて思っていたら、我が家のパキポの表面がペキパキポキ。
(あ、漫画 BECK に出てくる平くんのなんてファンキーなベース音ではありません。)

 

これは植物が横方向に急成長すると起こる現象だそうで(大御所サボテンショップの店長様から聞いたから間違いないゾ!多分。)
友人の言っていることは確かにその通りだなと感じました。
でも、あたらめて疑問が生じます。

「パキポは秋に太るっていうけどさぁ、どうして?」

温度が高いから? 雨が降るから? 湿度が丁度いいから?

ワカラン。。。

というわけで、植物と季節の変化に応じた植物の成長差について色々と調べてみました。

パキポディウムは過酷な環境を生き抜いている

まずはパキポディウムが生きているマダガスカル の環境を把握してみることにします。
マダガスカル 2019年の日別気温、降水量のグラフです。気象庁からデータをダウンロードし、エクセルでグラフを作り直しました。

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参考:気象庁、世界の天気

このままだとわかりづらいので、いろいろ書き加えてみてみることにします。

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マダガスカルは乾季・雨季の2季性。
参考:気象庁、世界の天気

よく言われることですが、マダガスカル は乾季・雨季の2季性であることが伺えます。
雨季・・・気温・降水量、共に高い。
無理やり日本に当てはめるとするなら、真夏。

乾季・・・気温・降水量、共に低い。
同様に、日本に当てはめるとすれば、暖かい冬。

乾季の最低気温は7.4℃。その日の最高気温は18.8℃。真冬の気温からプラス10℃した感じですかねー。(ちなみにこの記事を書いている2020/01/01の最高気温9℃。最低気温0℃。)

乾季はとにかく降水量が少ない。現地のパキポディウムたちはほとんど水のない6ヶ月を耐え抜いていることになります。

蛇足ですが、現地の最高&最低 気温は

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RANOHIRA の最高&最低 気温

このようになっていました。室内管理する際の参考になれば幸いです。

以上を基に、パキポディウムの季節性を考察していきたいと思います。特に今回は「太る」ことと、季節の関係に焦点を当ててみました。

そもそも、植物が太るとはどのようにして起こるのでしょうか?

幹が太る=形成層の活性化?

「植物が太る」=「幹の肥大」は形成層の活動によって引き起こされます。
形成層は茎断面図の赤字で示す部分に分布し、師管・導管の元となる細胞領域です。

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幹の断面図。形成層が活発に活動すると、二次木部・二次篩部を形成する。

参考: L.テイツ / E.ザイガー テイツザイガー植物生理学(2017)培風館

これだけだと少し難しいので、補足。

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(a) 上に載せた茎の断面図。なんとなく見たことある人も多いかな?
(b) 形成層断面図の拡大図。幹もたくさんの細胞からできています。
緑の部分=二次木部、赤の部分=形成層、青の部分=二次篩部
(c) 形成層が新しく二次木部細胞を作る過程。赤=形成層の細胞、
黄=分裂、肥大中の細胞、緑=二次木部の細胞


単純に考えて、形成層が頻繁に細胞分裂・分化をし、それぞれの細胞が肥大すれば幹は太くなります。すなわち、

幹をいかに太くするか?=維管束形成層をいかに活性化させるか?

と言えるのではないでしょうか。

「秋にパキポは太くなる」の「太くなる」には形成層の活性が関係ありそうです。

ここで維管束形成層と季節性の関連を調べてみました。

形成層は気温と日照時間に影響を受ける

形成層の活性と季節性の関連といえば、年輪。そう、年輪!

年輪形成についての論文をあたれば、何かヒントが見つかるかも。と思い、色々漁ってみました。ここでは2つの論文を紹介します。

1つ目は

『Biological Basis of Tree-Ring Formation: A Crash Course (C.B.K. Rathgeber et al.,2016) 』

こちらは形成層の活性と、季節の周期的な変化の関係について述べたミニレビュー。

この論文によると、形成層の成長は大きく5段階に分かれており、

  1. 細胞分裂
  2. 細胞肥大
  3. 二次細胞壁の形成
  4. リグニン化
  5. プログラム細胞死

の5つとなっています。

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形成層の成長 5段階

この論文には、形成層の活性と季節性の関連にも言及しています。

春・・・形成層の活動開始

夏・・・形成層の活動効率がピークに

秋・・・形成層の細胞分裂・肥大が停止。二次細胞壁の形成とリグニン化は停止せず、分裂と肥大が停止した2ヶ月後に完了する。

冬・・・形成層の活動が完全に停止。

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季節による形成層活性の変化

出典:Biological Basis of Tree-Ring Formation: A Crash Course (C.B.K. Rathgeber et al.,2016)

この論文からわかることは2つ。

  • 季節性は日照時間や温度によって決まる。
  • 形成層が最も活発になるのは、高温&日照時間が長いとき

2つ目は

『Localized cooling of stems induces latewood formation and cambial dormancy during seasons of active cambium in conifers (S. Begum et al.,2015)』

こちらはなんと、東京農工大学から発行された論文。

スギ・ヒノキの幹を部分的に8〜10℃に冷やし、形成層活性の変化を調べた論文。

論文によれば、

  • 幹の冷却開始から5週間経過後、導管の半径減少や形成層活性の低下が見られた。
  • 幹の冷却開始から8週間経過後、導管の半径は明らかに減少し、細胞壁の厚化が見られた。
  • 冷却をやめて2ヶ月後、年輪が形成され、形成層は再び活動を始めた。

出典:Localized cooling of stems induces latewood formation and cambial dormancy during seasons of active cambium in conifers (S. Begum et al.,2015)

これらの結果から、筆者らは

幹の温度減少は、形成層活性や木部形成の重要な制御因子である。

出典:Localized cooling of stems induces latewood formation and cambial dormancy during seasons of active cambium in conifers (S. Begum et al.,2015)

と結論づけています。

この結論は1本目の論文と矛盾しません。温度の低下により、形成層は活動を停止するという内容は一緒です。

まあ、幹の細胞を冷やせば、形成層の活性が低下するのはなんとなく想像できそうっすね。

考察 〜結局、どうしたらいいの?〜

さて、この記事の本題は
幹をいかに太くするか?=形成層をいかに活性化させるか?
でした。

そして、形成層が最も活発になるのは、高温&日照時間が長いとき でした。

ただ、これだと「秋にパキポは太くなる」っていう事と合致しません。

考えられる理由は2つ。

  1. 夏に大きくなるスイッチが入ったが、木部の形成には1〜2ヶ月かかるので、秋に成長したように見える。
  2. 夏は暑すぎて形成層が活動を休止させている。最も活性が高まるのは25〜30 ℃ 程度なのかも。1 日の平均気温は 20 ~ 25 ℃ 程度が良い。

 1. の仮説はしっくりきません。というのも、秋になると細胞肥大はストップするはずでした。この内容は先ほど書いた通りです。個人的には 2. の方が可能性高いと思うんですよねぇ。実際、光合成活性も同様なことが言われています。

35℃より高い温度では、ルビスコ活性の低下も起こる。

出典:L.テイツ / E.ザイガー テイツザイガー植物生理学(2017)培風館

 以上より、本題に対するBBYの結論は、

平均気温を 20〜25 ℃ 、日照時間を 12 時間程度 に設定する。

です!

正直、私の結論は、考察が浅いです(^_^;) 実際は様々な可能性があると思いますので、追々、リサーチを重ねていく予定です。

まとめ

  • 形成層の活性をあげると、幹を太らせることができるかもしれない。
  • 形成層の活性は 高温&長い日照時間 で高まる。
  • 1 日の平均気温を 20〜25 ℃ 、日照時間を 12 時間程度 に設定すると、形成層の活性は最大になるかも。

2021.12.09 追記

本考察の検証を行った記事を書きましたので、よろしければどうぞ。

bambooborny.hatenablog.com

生育記録も書いてますので、どうぞよしなに。

bambooborny.hatenablog.com

 

bambooborny.hatenablog.com

 

bambooborny.hatenablog.com

 

 

参考

【本】

 L.テイツ / E.ザイガー テイツザイガー植物生理学(2017)培風館

 

【論文】 

Biological Basis of Tree-Ring Formation: A Crash Course (C.B.K. Rathgeber et al.,2016)

Localized cooling of stems induces latewood formation and cambial dormancy during seasons of active cambium in conifers (S. Begum et al.,2015)

 

【Web】

気象庁、世界の天候
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