BBYの観葉植物 Discussion Note

観葉植物の生育環境や、育てかたについて考えたことを載せるブログです。

紫外線の形態形成について~やっぱり紫外線を諦めらんねぇよ~

以前、紫外線(UV-B)を当てて、アントシアニンの蓄積を試みたことがありました。
その時は見事失敗に終わりまして。ですが、諦めたくない!
紫外線にはまだまだ可能性があるのではないか?ということで、紫外線(UV-B)の有効性、植物に変化をもたらす光量などを調べなおしてみました。この記事の概略は目次で確認してみてください。

 ちなみに過去記事はこちら。

 

bambooborny.hatenablog.com

 

bambooborny.hatenablog.com

紫外線は3種類に分けられ、複数の光受容体が関与する

復習になりますが、紫外線の分類と、光受容体をまとめておきます。

紫外線の分類
  • UV-A・・・400〜315 nm
  • UV-B・・・315〜280nm
  • UV-C・・・280 nm 未満


紫外線は波長により3種類に分けられます。
波長が短くなるほど、生命とって有害です。
ですが、一番有害な UV-C はオゾン層でほとんど吸収されてしまうので、そんなに気にすることはないと思っています。

 

紫外線の光受容体
  • UV-A → クリプトクロム、フォトトロピン *1
  • UV-B → UVR8*2


UV-Aを感知するクリプトクロム、フォトトロピンは青色光の光受容体でもあります。
すなわち、青色光を浴びても、UV-Aを浴びても同じ反応をするんじゃないかと思うわけです。
なので今回は、UV-B に着目して話を進めていきます。

紫外線の光形態形成〜紫外線を浴びることによって、植物は姿をこう変える〜

テイツザイガーに記載されている、UV-Bの関与する光形態形成反応は

  • 遺伝子発現制御
  • UV-B耐性獲得
  • フラボノイド生合成
  • 胚軸成長抑制
  • 葉 / 表皮細胞拡大
  • 表皮細胞成分の複製
  • 気孔密度
  • 日時計の同調
  • 光合成効率の増大

出典:L.テイツ / E.ザイガー テイツザイガー植物生理学(2017)培風館 p.471

となっています。

Re-interpreting plant morphological response to UV-B radiation (T. M. Robson et al.,2015)、
Photomorphogenic responses to ultraviolet-B light (G. I. Jenkins.,2015)
などの論文を見てみると

UV-B照射による一般的な光形態形成は

  • 葉の分厚さの増加
  • 葉の長さ・幅の減少
  • 葉が丸まる
  • 脇芽の伸長
  • 胚軸や幹の伸長阻害

テイツザイガーの表皮細胞の拡大というのは葉の分厚さを増大させるようなものだと解釈すれば、矛盾はありません。

ふむふむ、こんな感じですか。赤、青で示した応答は、植物をかっこよく作りこむのに使えそうですな。次項でもう少し言及します。

紫外線(UV-B)の光形態形成を有効に使える植物は?

植物それぞれに理想の姿があると思います。

例えば、
パキポディウムだったら、まるっと太った幹。
アガベだったら丸い形。
ビルベルギアだったら赤く、綺麗な筒状。

理想の姿に近づけるために、UVBが一役買ってくれそうなのは、

【フラボノイドの生合成】
アントシアニンの生合成で綺麗に発色する植物
例 : ビルベルギア、エクメアなどのタンクブロメリア

【胚軸や幹の伸長抑制】
背丈を低くぶってりした方がかっこいい植物
例 : パキポディウムなどの灌木

【葉の分厚さの増加】
葉ぶっとくなった方がかっこ良い植物
例 : オトンナ クラビフォリアなど多肉質の葉をつける植物

【葉が丸まる】
アガベをボール状にするのに有効そうな気がします!
私も友人もアガベが伸びてしまう現象に悩まされているので、この発見にはココロオドル アンコールわかす Dance Dance Dance 状態でした。アガベの形状に関しては、別記事でまとめようと思ってます。

と、色々あります!ちょっとこれいいんじゃあないですか!? これらの形態形成を引き起こすにはどれくらいの紫外線(UV-B)量が必要なのでしょうか?

どれくらいの紫外線量(UV-B)で光形態形成は起きるのか?

冒頭でも書きましたが、私は爬虫類用のUVBライトを購入してビルベルギアに照射したことがあります。
結果は、ほとんど変化なし。ほのかにアントシアニンが蓄積する程度でした。
その時の放射照度は 0.45 W/m2。少なくともこの光量では足りないということです。
では、どのくらいの光量がいいのか?とりあえず2つの論文から実験モデルを調べてみます。 

【1 本目】
UVR8 Interacts with BES1 and BIM1 to Regulate Transcription and Photomorphogenesis in Arabidopsis (T. Liang et al.,2018)

論文自体も興味深い内容ですが、分子生物学的な内容なので省略します。
さて、気になる紫外線量は

supplemented with UV-B (Philips TL20W/01RS narrowband UV-B tubes, 2 W/m2)
※24時間照射

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出典:UVR8 Interacts with BES1 and BIM1 to Regulate Transcription and Photomorphogenesis in Arabidopsis (T. Liang et al.,2018)

やっぱりこれくらいの光量は必要なのかね。2本目の論文も見てみましょう。

 

【2 本目】
UVR8 disrupts stabilisation of PIF5 by COP1 to inhibit plant stem elongation in sunlight (A. Sharma et al.,2019)

こちらはNature Communication に掲載された論文。あの Nature の姉妹誌なので、インパクトファクターはすんごい。イケイケの論文です。
紫外線量は、

Supplementary narrowband UV-B (~1.0 μmol m-2s-1) was provided by Philips TL100W/01 tubes.
1.0 μmol m-2s-1 = 0.38 W/m2
※16時間照射

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出典:UVR8 disrupts stabilisation of PIF5 by COP1 to inhibit plant stem elongation in sunlight (A. Sharma et al.,2019)

あれ?これくらいでいいのか?植物種にもよるのでしょうか。

私の経験も含めると、1 W/m2 程度は必要なんでしょうね。

必要な紫外線量を提供してくれるライトとは?

考察した光量を満たすライトはあるんでしょうか。
もう一度調べ直すと、こんな商品がありました。

 これならば

20 cm からの照射で 74.2 μW/cm2 = 0.742 W/m2
30 cm からの照射で 35.0 μW/cm2 = 0.35 W/m2

と、十分な紫外線量を確保することができる!?
うーん、微妙ですね、、、。他にもっと紫外線量の高い商品があったのですが、発熱量も多いみたいで、葉焼けの心配があります。そもそも、20 cm より近い距離だと、熱をあまり出さない LED であろうと葉焼けしちゃいそうです。
加えて、爬虫類用の紫外線ライトは赤外線も多く含まれている場合が多く、これも頂けない。エマーソン効果を狙うのはいいかもしれませんが、あまりに多いと徒長の原因になります。いまのところ、植物に適したUVB ライトは見つかりませんでした。現状、太陽の紫外線に頼るしかなさそうです。

まとめ

  1.  紫外線 (UV-B) による形態形成は、植物をかっこよく育てるのにかなり有効。
  2.  紫外線 (UV-B) による形態形成を引き起こすには、約 1 W/m程度は必要。
  3. 形態形成を引き起こす紫外線量を確保するのに最適なライトはまだ無い。太陽光に頼るしかなさそう。

参考

【論文】

Re-interpreting plant morphological response to UV-B radiation (T. M. Robson et al.,2015)

Photomorphogenic responses to ultraviolet-B light (G. I. Jenkins.,2015)

UVR8 Interacts with BES1 and BIM1 to Regulate Transcription and Photomorphogenesis in Arabidopsis (T. Liang et al.,2018)

UVR8 disrupts stabilisation of PIF5 by COP1 to inhibit plant stem elongation in sunlight (A. Sharma et al.,2019)

【本】

L.テイツ / E.ザイガー テイツザイガー植物生理学(2017)培風館

【Web】

UV-A - 光合成事典

*1:UV-A - 光合成事典

*2:テイツザイガー植物生理学(2017)培風館 p.471