前回初めてDyckia属の生育記録を投稿しました。トリコームについて気になる事があったのでこの記事で書いていきたいと思います。
- ブログを書いて植物を細かく観察するようになった
- Dyckia 'All Star' の夏にできた葉と冬にできた葉、およびそれぞれの環境比較
- 水やり頻度や湿度の差はトリコーム生成に影響を与えるか
- 光源の違いはトリコーム生成に影響を与えるか
- トリコーム生成を誘導する UV-B の強さは
- まとめ
- 参考
ブログを書いて植物を細かく観察するようになった
生育記録を投稿するようになってから、今までよりも植物をじっくり観察するようになりました。ブログに書くネタを探しているからですね。笑
そのような意味でもブログをやって良かったなぁと思う今日この頃です。
さて、前回初めて Dyckia 属の生育記録を投稿したのですが、
ブログを書きながら気になったのが Dyckia 属のトリコームについてです。
Dyckia 'All Star' の夏にできた葉と冬にできた葉、およびそれぞれの環境比較
Dyckia 'All Star' の夏に作った葉と冬に作った葉の比較
まずは夏に作った葉です。こちらを見てください。
葉の中心部分にトリコームがガシガシに載っています。
一方、冬に作った葉です。どん。
葉の中心部分にはトリコームがほとんど載っていません。
どうしてこのような差が生まれてしまうのでしょう?
おそらく、夏と冬の環境の違いがこの差を生んでいるのだと思われます。
そこで、夏と冬の環境の違いをまとめてみました。
夏と冬の環境を比較してみる
生育に影響の出そうな要因を集め、表にまとめてみました。
この中で大きく異なるのは、
- 光源
- 湿度
の2つ。それぞれ詳しく考察していこうと思います。
水やり頻度や湿度の差はトリコーム生成に影響を与えるか
湿度って夏と冬で約 30% も違うんですね。
以前、「乾燥状態が続くとトリコームが増えるんじゃあないか?」という記事を書いた事があります。
この記事では植物体の隙間から起こる「クチクラ蒸散」を防ぐために、トリコームが増えると推測していました。この推測が正しければ、
湿度が低くなる → クチクラ蒸散が増える → トリコームが増える
となりそうです。
しかし、今回の観察では
冬(湿度40%)→ トリコームがあまり載らない
夏(湿度70%)→ トリコームがたくさん載る
と逆の結果になってしまいました。
つまり、私が以前立てた仮説は誤りだったという事に、、、、。(すいません。泣)
そこで、改めて湿度とトリコームの関係について調べた論文を探してみたところ、
あるにはありました。が、私には理解できませんでした。(泣泣)
湿度がトリコームに影響を与えるかといわれたら、
「影響を与える可能性は低い。」
というのがBBYの答えです。
光源の違いはトリコーム生成に影響を与えるか
ここでは
- PPFD値
- 波長
について個別に考察していこうと思います。
PPFD値
真夏の直射日光のPPFD値は約 2000 μmol m-2s-1 と言われています。
対して、冬の管理に使っていた EnFun LED ライトの当時の PPFD 値は 1000 μmol m-2s-1 です。
この違いがトリコームの載りに影響を与えている可能性は十分にあります。ただ、LEDライトで 1000 μmol m-2s-1 というのはかなりの光量。完全な予想になりますが、もし 高光量でトリコーム生成が誘導されるのなら、1000 μmol m-2s-1 という数値は十分な量だと思うんですよねぇ。これに関しては検証が必要っすな。
波長 〜UV-Bがトリコーム生成に影響を与える可能性〜
太陽光とLEDライトで大きく異なるのは紫外線&赤外線の量です。
太陽光の方が、圧倒的に紫外線&赤外線が多い。
中でも私が着目したいのはUV-Bです。
私が以前トリコームについて書いた記事にも、UV-Bがトリコーム生成を促す可能性について書いています。
その根拠となる論文がこちら。
『The responses of trichome mutants to enhanced ultraviolet – B radiation in Arabidopsis thaliana (A. Yan et al.,2012)』
この論文はシロイヌナズナ野生株とトリコームをたくさん作る変異株、あまり作らない変異株に UV-B を照射して、その後の生育を比較した論文です。この論文にはこのような記述があります。
the trichome density showed a significant increase, suggesting a clear induction of trichome formation by UV-B.
〔(UV-B を照射すると、)トリコームの密度が優位に増加した。このことから、UV-B によってトリコームの生成が明確に誘導されていることが示唆された。〕出典:The responses of trichome mutants to enhanced ultraviolet – B radiation in Arabidopsis thaliana (A. Yan et al.,2012)
実験に使われているのがシロイヌナズナなので、ブロメリアである Dyckia 属にも当てはまる事なのか少し不安だったんです。根拠としては少し弱いかなーと。
ですが、今回の観察結果を見る限り、
Dyckia 属でも UV-B によってトリコームの生成が誘導される事が考えられます。
トリコーム生成を誘導する UV-B の強さは
ここまで、UV-B がトリコーム生成を誘導するかも、ということを書いてきました。
実際、どのくらいの強さの UV-B を照射すれば、トリコームが生成され始めるのでしょうか?
確実に言えることは、8月の UV-B 量はトリコーム生成を誘導するのに十分だということ。
ただ、もう少し具体的にトリコームが載る UV-B 強度が知りたい。
もう一度 Dyckia の葉を見てみると、
3月〜4月中旬あたりに作られたであろう部分にはトリコームがそこまで載っていません。
一方、4月下旬〜現在(5月24日)までに作られたであろう部分には、トリコームがべったり載っています。
各時期における UV-B 強度を調べれば、トリコーム生成に必要な強度がわかるかもしれない!
各時期の UVインデックス月平均値*1とUV-B の強度*2をまとめてみました。
※2020年8月は気象庁のデータを参考に記載。
※2021年3~4月は雨天時のデータを除いた平均値を記載。
この表を元に推測すると、トリコーム生成を誘導する UV-B の強さは
1.3 W/m2
です!
まとめ
トリコームの生成を誘導する環境因子は
1.3 W/m2 以上の UV-B だと推測される。
ただし、高光量によって誘導されるという可能性も否定できない。
参考
【論文】
The responses of trichome mutants to enhanced ultraviolet – B radiation in Arabidopsis thaliana (A. Yan et al.,2012)
【Web】
気象庁 > 紫外線のデータ集
紫外線モニタリングネットワーク > UV インデックス 取扱上の注意